「不健康義父」
「うるさい、俺がやることに口出しをするんじゃねぇ!」
義父の怒鳴り声と、コップが割れる音がリビングに響く。
またか、と慶子(けいこ)は深いため息を吐いた。
穏やかで優しかった義母が事故で逝去し、一人ぼっちになった義父と同居して2年。夫である大輔(だいすけ)と義父は、度々衝突を繰り返していた。
喧嘩の内容は、大抵が義父の食生活のことである。素人である慶子からしても、義父の食生活が褒められたものではないことはわかっていた。
義父はビールを好み、晩酌は欠かさない。しかも揚げ物、スナック菓子をつまみに欲しがり、慶子に用意させていた。ちなみに、野菜の類は一切口にしない。
義父は健康診断は行かないため、自身の体がどれだけ不健康であるか知ることもない。
義父と揉めるのが面倒だったので、慶子が義父に提言をすることはなかった。
大輔が注意をする度に義父が暴れるため、大輔も相当参っていた。
「親父には困ったよ…」
「もう放っておけばいいんじゃないの?」
「そうは言っても、親父が体壊して入院とかになったら、俺も慶子も迷惑だし。慶子からも言ってやってくれないか?」
「…わかった。私のほうからも、気をつけるように言ってみるよ」
「ごめんな」
大輔に頼まれた手前、適当に流すことが出来ず、慶子は腹を括った。
そして翌週、義父から晩御飯に刺身と天ぷらリクエストされたとき、慶子は思い切って発言をした。
「お義父さん、野菜とかきのこも食べませんか?このままだと、お体に触りますよ」
「あ?」
義父は突然顔を真っ赤にして怒り出した。
「嫁の分際で、俺に口出しするな!いいからだまって刺身も天ぷらも用意しろ!」
「キャッ!」
義父は、慶子の肩を力強く押した。よろけた慶子は机に腰を打ち、痛みに悶える。
義父は舌打ちをし、部屋を出て行った。
慶子は、義父に復讐をすることを心に決めた。
翌日、慶子は朝は干物を出した。昼は白子とエビの天ぷら、夜はあんこう鍋。もちろんビール付きである。
義父は機嫌を良くし、バクバクと慶子が用意した物を食べていた。
慶子は義父だけに特別メニューを用意し、自分と大輔は別の物を食した。
いくら丼、カツオのたたき、レバーカツ、そして大量の果物…。毎日、慶子は義父に特別メニューを用意し続けた。
義父はずっと上機嫌であった。
そして、数週間後。そのときは突然やってきた。
「い、いたたたたた!!!!」
突然、義父が家中に響くほどの叫び声を上げた。
「親父!」
大輔が義父に慌てて駆け寄るが、義父は叫び声を上げてのたうち回るばかりだ。
「足、足が!痛い!!あー!!!」
義父は足を抱えて悶絶している。
痛がる義父を病院へ連れて行くと、診断結果は痛風であった。
医者から食生活を指導される義父を見ながら、慶子は内心大喜びであった。
慶子は、義父に痛い目を見せるために、わざわざ痛風になりそうなメニューを用意していたのである。
痛風は本当に痛かったようで、義父はすっかり大人しくなった。
義父は医者から禁酒を言い渡されたため、大好きなビールも飲まなくなった。
酒代がかからなくなり、慶子は万々歳である。
「お義父さん、また痛風にならないように、野菜もしっかり食べましょうね」
「…おう、わかった」
素直に言うことをきく義父に、慶子はにっこりと笑顔を向けた。
おわり。
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