「いじわる義妹」
桜は義妹のことが苦手であった。
夫と10歳年が離れている義妹は甘やかされて育っており、我が儘の権化のような人である。
義妹はもう30歳近くなるが義実家に住んでおり、アルバイトをしている。義両親が様々な会社に手を回して義妹を働かせようとしたが、怠け者で自分勝手であるため、なんの職種に就いても長続きしなかった。
それだけなら桜も他人事として見ていられたのだが、義妹は桜に対してあからさまな嫌がらせをしてくるのだ。
桜が義実家に行くと義妹は必ず顔を出してきて、まるで子どものような態度を取ってくる。
「これ、桜さんが買ってきたお菓子なの?センスないね、不味いんだけど」
「…ごめんね」
「ほんっと、ババアになりたくない。年とったら桜さんみたいになるの、無理。生きていけないんだけど」
汚い物を見る目で桜を見てくる義妹に、桜は苛立ちを隠しきれなかった。桜と義妹は年は2つしか離れていないが、ことあるごとに義妹は桜の年齢のことを言ってくるのだ。
なぜ義妹が桜に噛みつくのかと言うと、桜の容姿が関係していた。
桜の父はアメリカ人で、桜は所謂ハーフである。ぱっちりとした二重に、日本人離れした高い鼻。身長が高いため、若い頃はよく芸能事務所にスカウトされていた。
対する義妹は日本人形のような控えめな顔立ちをしており、それにコンプレックスを抱いているようだ。
初めて義妹に会ったとき、振り袖が似合っていたので桜がそれを褒めたら、義妹は顔を歪ませてこう言った。
「なにそれ、馬鹿にしてるの?自分が美人だから、私のことを見下しているんでしょ」
それから義妹は、桜に対して悪態をつくようになった。
なるべく義妹と関わらないようにしていた桜だったが、義妹と衝突してしまう出来事があった。
なんと、義妹が好きなアイドルグループに手紙を送る際に、桜の写真を同封していたことが判明したのだ。
ご丁寧に『私の写真です。連絡先はこれです』という文言付きであった。
「義妹ちゃん、私の写真を勝手に使われると困るんだけど…」
「なっ…別にいいでしょ!誰の写真を使おうが!」
「私は困るの。自分の写真を送ってよ」
桜の言葉を聞いた瞬間、義妹は烈火の如く怒り始めた。
「桜さん、どうせ私のことをブスだと思ってるでしょ!自分の見た目を鼻に掛けて、ムカつくんだよ!」
「そんなこと思ってないよ」
「嘘!どうせ桜さんの家族はみんな、人を見下した奴らなんだよ!嫌な性格してるんだ!人間性がカスなんだよ、見た目しか取り柄のない奴ら!」
家族のことまで引き合いに出された桜は、はぁ、と大きなため息をついて、スマホを取り出した。そしてある人物にテレビ電話をかけた。
『もしもし?姉ちゃん、どうしたの?』
「あなた、ファンからしたら、見た目しか取り柄のないカスらしいよ」
『え、何、どういうこと?』
「ファン代表に代わるね」
興奮しながら桜を睨み付ける義妹に、桜はスマホの画面を向けた。
義妹はその瞬間、膝から崩れ落ちた。
桜が電話を掛けた相手は、自身の弟である。その弟は、現在アイドルグループに在籍しており、義妹がファンレターを送った張本人であった。
桜の写真が送られてきたというタレコミは、弟からのものであったのだ。
「えっ…あっ…」
言葉を失う義妹に対し、弟は困惑したような顔をした。
『えーっと、うちの姉ちゃんのことよろしくね。あんまり苛めないであげてよ。あと、俺、カスって言われないように頑張るからさ。応援しててね?』
弟との通話を切った瞬間、義妹はボロボロと泣き始めた。
「…ご、ごめんなさい…」
「うちの家族のこと、悪く言うの止めてよね」
義妹は深く反省したようで、桜に何度も謝罪をしてきた。
それからと言うもの、義妹は逆に桜にベタベタするようになってしまった。
それはそれで嫌だなと思いつつ、悪態をつかれるストレスがなくなり、スッキリした桜であった。
おわり。