「義母が負けた日」
北海道
由美子
私の義母は、やたらと子育てに干渉してくる。
私としては、育児本やネットで学んだので特に意見は聞きたくなかった。
なのに、何かと口出ししてくるのだ。
肌寒くなる時期になると、これでもかと上着を着せる。
「汗をかいたらいけないので」と言っても全く聞いてくれない。
「こんな寒いんだから、厚着させなきゃ駄目よ」と言うのだ。
私は果物にアレルギーがある。
娘も同じだったら困るので離乳食に果物を入れる事は避けていた。
なのに、義母はそんなのお構いなしに果物を与える。
事情を説明しても「甘やかしている」と言うのだ。
好き嫌いはさせちゃいけないと言っては、なんでも与えようとする。
ちょっとでも文句を言うと、「私はあなたの先輩よ」と言うのだ。
確かに、母親としては先輩なのかもしれない。
だが、私には私なりの考えがある。たまに来てグチグチ言われては嫌になる。
私の娘は、他の子から比べると成長が少し遅かった。
医師からは個人差があるから大丈夫だと言われ、ホッとしていた。
なのに、義母は私のやり方が悪いと責めた。
夫は私の事を理解し、励ましてもくれた。
だが、私のイライラはおさまらなかった。
特に抱っこには厳しかった。
娘が泣いたので、私が抱っこしようとすると怒る。
「抱っこの癖がついたらどうするの?そうやって甘やかしたら、ろくな子供にならないわよ」
まだ生後半年だというのに、放っておけと言うのだ。
実家の母に相談したら、義母と揉めるのは良くないから合わせておきなさいと言う。私にできる事は、義母の言葉を受け流す事だけだった。
私は、義母の前では娘が泣いても抱っこさえできなかった。
私を求める泣き声を聞きながら、悔しくて辛くてどうしようもなかった。
それでも、グッとこらえて義母に従ってきた。
ある日、近所で新米ママが集まるイベントに参加する事になった。
義母は、他のママ達にも自身の子育て論を並べ立てていた。
「子供が泣いたからといって、すぐに抱っこするお母さんがいます。だから、甘ったれの子供が増えるんですよ」
私の事を言っているとすぐにわかった。
だが、周りの人の手前、文句を言うわけにはいかない。
「それに、好き嫌いなく食べさせればアレルギーなんて起きませんよ」
義母の勝手な持論に、周囲のママ達も納得し始めた。
私は、恥ずかしさからこの場から逃げ出したくなった。
だが、その時だ。
「余計な事を言わないでください」と、40代後半ぐらいの女性が怒ってやってきた。どうやら、イベントの主催者の一人らしい。
「子供が泣いたら放っておけって、いつの時代の話ですか! あなた、この集まりの目的を知っていて来ているんですか?」
女性が出したパンフレットには、「子供を抱っこする事で、親子の絆が育まれる」という一文が書かれていた。
義母は慌てて言い訳を始めたが、女性の怒りはおさまらなかった。
「それに、アレルギーと好き嫌いを一緒にしないでください。もし安易に与えて、万が一の事があったらどうするんです? あなた、責任が取れるんですか?」
一気に捲し立てられ、義母はぐうの音も出ないようだった。
こんなにスカッとした気持ちになった事はない。
私は、その女性に心の中で感謝した。
「あなたの考えは古いんですっ。専門家でもないのに、偉そうに言わないで」
言われた義母は、傍から見てわかるほどシュンとしていた。
他のママ達からも白い目で見られ、逃げるように会場から去っていった。
後から知ったが、怒っていた女性は子育ての専門家だった。
普段から、偉そうに子育て論を言っている義母にとっては、かなりキツイ言葉だったようだ。それ以来、子育てに関して意見を言わなくなった。
子育ては、時代によって変わる。
それを義母にはちゃんと知っておいて欲しいものだ。
おわり。