春江は念願のマイホームを手に入れたばかりである。夫である昌信と共に長年細々と貯金をし続け、ようやく買うことができた。
間取りも庭の広さも気に入っているが、唯一の欠点があった。
それは、義実家から徒歩5分の場所に位置することである。
土地がなかなか決まらずに悩んでいた春江と昌信のために、義母が知人の土地を安く売って貰えるように交渉したのだ。
そのことに関してはありがたかったのだが、春江は過干渉気味である義母の近くに住むことが嫌だった。
「春江さん、煮物多く作ったから置いていくわね」
「ありがとうございます…」
春江が心配した通り、義母は昼夜問わずやってきて、色々な物を置いていった。
しかも昌信は義母の料理が苦手なため、一切手をつけない。食べるのは春江の役目だった。
冷蔵庫は義母が持ってきた物でいっぱいになり、春江は心底困っていた。
「昌信、悪いんだけど、お義母さんにもう料理持ってこなくていいって言って貰えないかな?」
「まあ、俺は食べないしな」
「そうなの。冷蔵庫がパンパンで困ってるの」
「わかったよ」
昌信の方から、義母の料理を断って貰うことが出来た。
義母はしばらくの間は家に来なくなり、春江はホッと胸を撫で下ろした。
翌週、春江が家の中を掃除していると、庭に人の気配を感じた。カーテン越しに人影が動くのが見え、春江は110番をするか悩んだ。恐怖に震えながらそっとカーテンの隙間から庭を覗くと、なんとそこには義母がいた。
「お、お義母さん!?何をしているんですか!?」
「庭にバラを植えに来たのよ。うちから株を分けたの」
「せめて一言言ってください、勝手に庭に入られたらびっくりしますから!」
「息子の家なんだから、好きに来てもいいでしょう?」
怒りに震える春江に対し、義母は不思議そうな顔をしていた。
その後、義母のありがた迷惑な行為がエスカレートしていった。
庭に勝手に植物を植えるばかりか、春江の好みではないデザインの椅子を持ってきて勝手にリビングに置いたり、古い食器を持ってきたり、やりたい放題であった。
気づけばほぼ毎日義母が家に遊びに来ており、春江は心が休まる日がなかった。
昌信がそれとなく注意をしても、義母は何が悪いのかさっぱりわからない様子だった。
ある日、いつものように勝手に家に遊びに来た義母は、テレビを見ながら春江に言った。
「春江さん、猫だけは飼わないでね。私、猫嫌いなの。アレルギーだし」
「…そうなんですね」
「庭にも猫避けをしておいたから」
「…はい」
義母に言われなくても、春江は元々動物を飼うつもりはなかった。
しかし、この発言を聞いてから、春江はいいことを思い付いたのだった。
翌日、春江は猫を飼っている友人の家に遊びに行った。
「こんな物でよければ、いくらでもあげるけど…」
「ありがとう!」
友人からある物を受け取った。
そして後日、義母が春江の家に来たときにそのある物の効果が発揮された。
「ハクシュッ、クシュン!は、春江さん、なんだか目と鼻が痒いのだけれど…」
「どうしたんですか?花粉症ですかね?」
「ヘクシュン!き、今日は家に帰るわ」
義母は目を真っ赤にして帰っていった。
その翌日も義母はくしゃみが止まらず、咳も出ていた。
新しい芳香剤がダメなのかも、掃除をしたばかりだから埃っぽいのかも、と春江はそれらしい理由を並べて義母を説得したが、原因はわかっていた。
春江が友人宅から貰った物とは、猫の抜け毛である。茶色の猫の毛を、見つからないように家中の茶色い場所に擦り付けたのだった。
そのうち、義母は家に来る頻度が減った。
春江は定期的に猫の毛を貰っては家に撒き、義母を撃退し続けたのであった。
おわり。