「孫の写真を晒す義母」
菜穂(なほ)は第一子である穂波(ほなみ)が生まれたときに、心に決めたことがあった。それは、穂波の写真をSNSに載せないということである。
菜穂は、高校のときにバイト先のHPに写真が載ったことでストーカーまがいのことをされ、怖い思いをした過去がある。その経験から、ネットに顔写真が流れることに対して人一倍恐怖を感じていた。
生まれたばかりの穂波を家族みんながこぞって撮影していたとき、菜穂はあらかじめ話をしていた。
「穂波の写真は、絶対にネットにアップしないで下さいね」
夫の健斗(けんと)、そして菜穂の両親は絶対にしないと誓ってくれた。しかし、義母だけは返事をしていなかった。
穂波は目が大きくてとても愛らしい顔立ちをしており、出掛けた先では人々が振り替えって見るほど可愛い。親の欲目だけでなく、周りから美人だと評価され続けてきた。
穂波が1歳を過ぎたあるとき、義母が興奮しながら家にやってきた。
「ねぇ!穂波がスカウトされたわよ!有名芸能事務所からよ!」
興奮気味に話す義母を見て、菜穂は話の要領を得ずに首を傾げた。
「どこでスカウトされたんですか?」
「ネットよ!SNSに穂波を載せたら、芸能事務所のほうからメッセージが届いて…」
菜穂は義母の言葉に目を見開いた。
「…穂波の写真を、SNSにあげたんですか?」
「だってこんなに可愛いんだもの!みんなに自慢したくなるでしょ?」
「やめてくださいって言いましたよね。ネットは怖いんですよ。一度画像が流れると、ずっと残るんですよ」
義母は怒りに震えながら説明する菜穂を見て、大きな笑い声をあげた。
「大袈裟よ!10年も経てば顔は変わるんだし!」
「何気ない写真から、住んでいる場所が特定されたりするんですよ。笑い事じゃないです!」
「そんなワケないじゃない」
何を言っても馬鹿にする義母に対し、菜穂は頭に血が上り、目眩がするほど腹が立った。
翌日、菜穂はSNSに義母の写真をアップした。義母が住むアパートの一室で、誕生日会をしたときの写真だ。
そして、写真と共に『この人を特定してください』という文章を載せた。
その投稿は瞬く間に拡散され、面白がったSNSの住人たちが様々な情報をコメントしてきた。
『アパートから見える風景に、有名なビルが見えるから○○町だろうな』
『この人、スーパーで見たことあるかも』
『アパート特定出来ました』
『昔、同じ会社で働いていた人だ』
そして数日後、義母の名前や住んでいるアパートの住所、パート先が特定されたのだった。
菜穂はそのコメント欄を義母に見せた。
スマホの画面を見た義母はみるみるうちに顔色が白くなり、口を開けたままわなわなと震えていた。
「な、何よこれ!なんでこんな…!プライバシーの侵害だわ!」
「写真一枚でここまで特定されるんですよ。ネットの怖さがわかりますか?」
「私の写真を勝手にネットに載せて…!こんなの許されないわよ!」
「お義母さんだって穂波載せましたよね?一緒ですよ。どうせ10年後には老けて顔が変わるからいいじゃないですか」
義母はギャーギャーと騒ぎ、健斗に言い付けていたが、健斗からも叱られて落ち込んでいた。
その後、菜穂はSNSから義母の写真を削除した。
義母は知らない人に顔と住所がバレてしまったことを恐れ、別のアパートへと引っ越していった。
ネットの怖さを身をもって知ったからか、穂波の写真をアップすることを止めたそうだ。
やりすぎたかな…と思いつつも、義母が反省したことを喜ぶ菜穂であった。
おわり。