「嫁をいびる義母」
寿々子(すずこ)が義両親と同居をし始めて、数ヵ月が経った。
この数ヵ月、食事の時間は寿々子にとってとにかく苦痛だった。
「寿々子さん、この煮物って何で味をつけたの?」
「えっと…みりん、醤油、出汁です」
「ふーん。あんまり、私の口には合わないかも」
「すみません」
義母は寿々子が作った煮物をまじまじと見つめ、一口も食べずに嫌な顔をする。
寿々子は胃がキリキリと痛むのを感じた。
寿々子が作った食事に対して、義母が文句を言わない日はなかった。
味を変えてみても、レシピ本を見ても、必ず難癖をつけられた。
義父は美味しいと言って食べてくれるのだが、義母はそれも気に入らないようだ。
「ねぇ、私、料理下手くそなのかな…」
寿々子は、夫に相談をした。
「お義母さんに料理がおいしくないと言われるの。レシピ本見てもだめで…」
「俺は美味しいと思うけどなぁ。あ、じゃあお袋に習ってみるのはどう?自分の料理なら文句は言わないだろ」
「確かにそうかも」
寿々子は早速、義母に料理を教えて貰えないか打診した。
義母はしぶしぶ引き受けてくれたのだが、義母の料理方法は雑だった。分量は一切気にせず、適当に調味料を入れていたのだ。
これでは味の再現が出来ず、寿々子は途方に暮れた。
「肉じゃがは今後、この味で作ってね」
「…善処します」
後日、寿々子は義母から教わった肉じゃがを作った。
寿々子が義母と同じように作ったつもりでも、義母からしたら味付けが違ったようで、義母は苛ついた様子を見せてきた。
「せっかく教えてあげたのに!はあ。時間の無駄だったわ!」
「すみません」
寿々子は謝ることしか出来なかった。
「寿々子さん、本当に料理が下手ね。萌ならもっと上手く作れるのに」
義母は大きなため息をついた。
萌というのは、寿々子の義姉である。
義母は萌を溺愛しており、何かにつけて寿々子と比べたがった。
萌の名前を聞いた瞬間、寿々子はあることを閃いた。
翌日、寿々子は萌に電話をかけた。
「萌さん、うちでお料理を作ってくれませんか?お義母さん、私の料理は口に合わないみたいで…」
『そんなのお安いご用だよ。むしろうちのお母さんがごめんね、寿々子さんに嫌な思いさせてない?』
「…仲良くやってますよ」
喉元まで義母の悪口がでかかったが、寿々子はそれを飲み込んだ。
そして萌に約束を取り付けることに成功した。
寿々子が萌に提案した計画はこうだ。
まず、萌が義母に見つからないようにしながら豪華な食事を作り、リビングの隣の和室で隠れて待機をする。萌の食事を食べた義母が喜んだところで、萌がサプライズで登場するという流れだ。
萌は、乗り気であった。
計画はすぐに実行された。
義母が友人と外出をする日に、寿々子は萌を招き入れ、こっそりと準備を始めた。
寿々子の計画通りに事は進み、待ちに待った夕食の時間になった。もちろん、萌は隣室にて待機中である。
義母は卓上に並ぶ豪華な料理を見て、目を見開いていた。
「これ、寿々子さんが作ったの?」
「はい。日頃の感謝を込めました」
「…ふうん」
義母は料理を一口だけ口にすると、わざとらしくティッシュに吐き出した。
「ペッペッ!味が濃すぎるわ。まずい。見た目だけの料理ね」
「すみません…」
「本当に寿々子さんはセンスないわね。いつも不味い食事を食べさせられる私の身にもなってよ。こんな料理、残飯のほうがマシ…」
義母の言葉が終わるより先に、リビングの扉が勢いよく開かれた。
「ちょっと、お母さん!」
急に現れた萌を見て、義母は驚きのあまり固まってしまった。
「な、なんで萌がここに…」
「お母さんが私の料理がいいっていうから、寿々子さんに頼まれて作りにきていたのよ!」
寿々子は肩を震わせ、泣いている演技をした。
「すみません、私が萌さんに頼んだばかりに…」
萌は寿々子の背中を擦りながら、義母を睨み付けた。
「信じられない。お母さん、ああやって嫁イビリしてたんだ!」
萌に説教をされる義母を見ながら、寿々子は内心大喜びであった。
その後、萌に怒られた義母はすっかり大人しくなった。今後また何かあったときは萌を頼ろうと決めた寿々子であった。
おわり。