「共有義父母」
義実家と同居をし始めてから、真子(まこ)は家族間での物の共有について悩むことが増えた。
真子の実家では箸や茶碗は各々自分の物を使っていたが、義実家は全て共用であった。さすがにバスタオルは拒否したが、真子以外は個人のタオルはなく、みんなで適当なものを共用している。真子がお菓子を買うとなんの断りもなく義両親が食べてしまうし、時には飲みかけのペットボトルまでなくなってしまうことがあった。
夫である雄太は元々そういう環境で育ってきたせいか、抵抗がないらしい。
「家族なんだから、別にいいでしょ」
雄太も義両親も、ことあるごとにこの台詞を口にしていた。
自分が慣れるしかないのかな、と真子は思っていた。
あるとき、真子と雄太は車を購入することになった。
真子が運転免許を取ったため、買い物に行く際に車を使うことにしたのだ。
「私たちと共用でいいんじゃない?」
「そうだぞ、わざわざ買わなくても…。車はお金かかるぞ」
義両親は最初、車の購入に反対していた。
義両親が持っている1台の軽自動車を、みんなで乗ればいいと提案をされた。
しかし、家族間での物の共用がまだ受け入れきれない真子は、どうしても自分の車が欲しかった。
「私の独身時代の貯金で買いますので、大丈夫です」
反対する義両親を説得して、真子はなんとか新車を手に入れた。
自分の貯金で買った自分の好きな色、好きな形の車は、真子にとって宝物だった。大切に長く乗ろうと心に決めていた。
ある日、真子が朝起きてくると、義両親がいなかった。珍しいなと思いつつ、自分の朝食をゆっくり作っていると、真子のスマホに着信が入った。
相手は雄太であった。
『もしもし、真子?親父とお袋が車で事故を起こしたみたいなんだけど、病院に迎えに行ってやってくれないか?』
「えっ。わかった、すぐ行くね」
真子が慌てて家の外に出ると、義両親の車は車庫に停まったままであった。そして、真子の車がない。
真子は一気に血の気が引くのを感じた。
義両親の車に乗って指定の病院に行くと、悪びれた様子もない義両親がいた。
「いやー、初めて乗る車は馴れなくて運転が難しかったな。軽症でよかったよ」
笑う義父に対し、真子は激しい怒りを覚えた。
「なんで勝手に私の車に乗るんですか!」
「私の私のって…家族なんだから、みんなで使う車でしょう?」
「そうだぞ。板金塗装の代金は、こっちで払ってやるから」
謝罪すらしない義両親に、真子は怒りが爆発した。そして、復讐することを心に決めた。
翌日、真子は義父が一人でいるときに声をかけた。
「歯ブラシ、新しくしておきました。持ち手が黄色のやつです」
別の部屋にいた義母にも全く同じことを伝えた。そして、洗面台には、黄色の歯ブラシを1本だけ置いておいた。
一週間が経った頃、義母が風呂上がりに首を傾げながらやってきた。
「真子さん。私達の歯ブラシ置き場に歯ブラシが1本しかないんだけど…お父さんの歯ブラシは?」
「黄色のやつですよ」
「え、黄色は私のやつでしょう?」
すかさず義父が言った。
「いや、黄色は俺だと言われたぞ」
「えっ…」
義母の顔色がサッと白くなった。
「歯ブラシ、共用にしたんです。家族だから、いいかなって思って」
真子の言葉を聞いた瞬間、義父はえずき、義母は走って口をゆすぎに行った。そして義両親は、真子を罵倒し始めた。
「家族なんだから、別によくないですか?」
何を言われても、真子はそう返事をし続けた。
この件を雄太に話したところ、雄太は大声で笑っていたが、何かあったら義両親と雄太の歯ブラシを共用させる気でいる真子であった。
おわり。