「二世帯」
由布子(ゆうこ)は新築の二世帯住宅に住んでいる。
元々同居はしたくなかったのだが、義両親の強い要望に押し負ける形でこの生活がスタートした。
家を建てるに辺り、費用は全額義両親が負担してくれた。それはありがたかったのだが、義両親はいつも押し付けがましい発言をしていた。
「この家は、私達が建てたんだからね」
「そうだ、この家は俺達のものだぞ」
「あなたたちは謂わば居候よ!」
確かに家に関しては由布子も、旦那である直也(なおや)も感謝をしていた。
しかし、もとはと言えば同居を押しきってきたのは義両親である。
しかも、生活費は由布子夫婦がほとんど出しているため、居候呼ばわりされるのは不愉快であった。
「そうは言っても、それ以降は1円も出していないじゃないか」
直也が反論をすると、義両親は面白くなさそうに顔を歪めた。
「この家を建てたときに貯金はほとんど遣い果たしたからな。生活費を負担するのはお前達に決まっているだろ」
「そうよ。親の面倒を見るのは子どもとして当たり前のことでしょう。むしろ、家を建ててあげただけ感謝しなさいよ」
何を言っても義両親には響かなかった。
家事は全て由布子。金銭的負担は全て直也。由布子と直也は不満がどんどん溜まっていった。
いくら家賃がかからないとはいえ、大人4人の食費と光熱費は安くなかった。
しかも、義両親は食事に関して口うるさく、刺身や寿司、すき焼きなど、お金がかかるものを欲しがった。それに加え、週に3度は外食をする。更に、節水節電の意識もないため、冷房で冷えきった部屋で長袖を着ているような生活を送っていた。
同居を開始して1年が経ち、由布子は家計簿を整理しながらため息を吐いた。
「ねぇ、直也。2人で暮らしていたときより、2倍以上出費が増えてるよ…家賃払ってアパートにいたほうがまだ貯金できるかもしれない…。全然お金溜まらないよ」
直也も大きなため息を吐いた。
「こんなにストレスを感じながら、貯金もできないのか…」
「今後の生活について、お義父さんたちと話し合いしようよ」
「そうだな」
早速、義両親を交えて家計について話し合いをすることになった。
直也がお金の話をした瞬間、義両親の目がつり上がった。
「家を建ててやったのに!恩を忘れたか!」
「そうよ、口を開けば金金って。直也はそんな子じゃなかったでしょう?由布子さんに悪いこと吹き込まれてるんじゃないの?」
義母の口ぶりに対し、由布子が怒り出す前に直也が声を荒らげた。
「由布子がそんなこと言うわけないだろ!あんた達のワガママに答えて、家事だってひとりで頑張ってるんだぞ!」
「なんだその口のきき方は!お前らとは一緒に暮らせない!同居を解消するぞ!」
由布子は義父からこの言葉が出るのを待っていた。
そして由布子が思っている通りの言葉を、直也は吐き出した。
「ああ!出ていってやるよ!」
義父は興奮したまま、直也と由布子に怒鳴り散らす。
「この家は俺らの金で買ったんだ、お前らが出ていけよ!」
これまで黙っていた由布子は、静かに口を開いた。
「わかりました。お義父さんとお義母さんが買った家ですもんね」
「そうだ!」
「お金を出した人の物になるのは当たり前ですよね」
「当たり前だろ!」
由布子は直也と共に離席をした。
翌月、由布子と直也は引っ越し先を決め、二世帯住宅を出ていくことになった。
義両親の目の前で、由布子と直也は全ての家電や日用品を運び出した。
「なんで家電を持っていくんだ!」
「私達のお金で買ったので」
「食器やタオルまで持っていくの!?」
「私達のお金で買ったので」
タオルやカトラリーだけでなく、洗剤やトイレットペーパー、サランラップ、ボールペンに至るまで段ボールに詰めて運び出した。義両親の制止は無視し、家の中が空になるまで作業は続いた。
義両親は大声で何かを喚いていたが、由布子も直也も聞く耳を持たなかった。
空っぽになった家と同じくらい、由布子の心もスッキリしたのであった。
おわり。
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