「いじわる義母」
佳奈子が義実家で同居を始めてから、6年が経った。
佳奈子の一人娘である美佳は、3歳になる。
佳奈子は美佳の義母のことで、日々悩んでいた。
義母は美佳をとても可愛がっているのだが、美佳が嫌がることわざとやるのだ。
「おばあちゃん、美佳のお人形返して」
「ふふふー、悔しかったら取ってみなさいー!」
人形を高々と上げ、美佳がジャンプをして必死に取ろうとする姿を笑う義母。
美佳は泣きそうになりながら顔を歪め、下を向いてしまった。
「あらあら、美佳ちゃんは泣き虫ね」
「お義母さん、それくらいにしてあげてください」
「ごめんなさいね、美佳ちゃんが可愛くてつい」
義母の厄介なところは、悪気がないことだった。義母曰く、美佳は泣いた顔も可愛いので、色んな表情を見たいそうだ。
しかし、まだ3歳である美佳がそんなことを理解できるはずがない。
美佳は時々、義母がいないところでこう漏らしていた。
「おばあちゃん、美佳のこと嫌いなのかな」
「そんなことないよ。おばあちゃんは、美佳が大好きだよ」
「うん…」
もちろん、義母は美佳に意地悪をするだけではない。美佳にプレゼントをあげたり、一緒に散歩に行くこともあった。
しかし、美佳は繊細で優しい心の持ち主であり、義母の行動に心から傷つくことがある。
佳奈子はなんとかして、義母が美佳に意地悪するのをやめさせたかった。
そんな中、大きな事件が起きた。
美佳の保育園への入園に向けて、色んな物を買い揃えているときであった。
タオルや鞄など、美佳が自分で選んだ物を大切そうに仕舞っていると、義母がニヤニヤしながら隣にやってきた。
「美佳ちゃん、もうすぐ保育園だね」
「うん、美佳、楽しみなの」
「保育園はとっても厳しくて怖いところだから、強くならないとね」
「えっ…?」
これまで美佳には保育園は楽しい所だと伝えていたため、佳奈子は表情が曇った美佳を見て、義母を睨み付けた。
「お義母さん、やめてください」
「美佳ちゃんは泣き虫だからいじめられちゃうかもね。友達なんて出来なくて、ずっと一人ぼっちかもね」
「お義母さん!」
佳奈子が義母の肩を掴もうとした瞬間、美佳が立ち上がって義母のことを強く押した。
義母は後ろに転び、尻餅をついた。
穏やかな気質である美佳が人を押す瞬間を、佳奈子は初めて見た。
「おばあちゃんなんて大嫌い!いつも美佳に意地悪なこと言う!あっち行って、もう美佳に話しかけないで!」
ワンワン声をあげて泣く美佳を見て、義母は急に狼狽えた。
一連の流れを見ていた義父が義母を強く叱責し、義母まで泣いていた。
その後、義母が美佳に心からの謝罪をし、一時は仲直りをしたかのように思えた。
数ヵ月後、無事に保育園へ入園した美佳は、保育園から制作物を持って帰ってきた。『家族の絵』というテーマで、美佳が描いた絵だった。
「ママ、見て!家族の絵を描いたの」
「わあ、すごい、見せて」
美佳が笑顔で渡してきた絵には、4人の人間が描かれていた。
「これがパパで、こっちがママで、あとおじいちゃんと、これが美佳だよ!」
美佳の絵には、義母が描かれていなかった。
すかさずやって来た義母が、絵を見て驚いた顔をした。
「美佳ちゃん、おばあちゃんは?」
美佳は義母の顔を見ながら、はっきりと言った。
「家族って、大好きな人のことでしょう?美佳、おばあちゃん好きじゃないもん。だから描かないの」
純粋な気持ちでそう語る美佳を見て、佳奈子は笑いを堪えるのに必死だった。
義母はかなり落ち込んだ様子を見せていたが、これまでの美佳への行いの結果であるため、自業自得だと佳奈子は思った。
その後、義母がしばらく美佳に嫌われていたのは言うまでもない。
おわり。